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Selfishly

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4月

★ 『 とりあえずチュウから始めましょう』

暖かな日差しが金色の木漏れ日となって降り注ぐ木々の間を
心地よい春の風に背を押されるように 
ゆっくりと散策を楽しんでいる。
特に どこに行こうというあてもなく、
さりとて何かに思考を浸していたいわけでもなく。
この男、ロイ・マスタングには珍しくも「なんとなく」気ままに歩を
進めている。

街に出れば、心惹かれる妙齢の(妙齢以外も)
見目麗しいレディー達からの
ひっきりとなしのお誘いや秋波を浴びて
 ひと時の心の潤いを楽しむ事も
できるだろうに、今日は何故か それが鬱陶しく感じられるという
自分ではありえない気分に不思議に思いながらも、
「鬼の居ぬ間に」と、ホークアイ中尉に聞かれたら愛用の銃から
弾丸の1発や2発をプレゼントされるに違いない事を考えての
貴重な脱走の時間を、何故か公園の森を散策するのに費やしている。

「そろそろ戻らないとやばいな。」
ふと気がつくと、そろそろ森の木々を抜け小高い丘に出る
公園の端にまで来ている自分に、
思ったより時間が過ぎているのを感じ、
頃合かと足を反そうとした瞬間に 
何か白い物が目の前を横切って行った。

ふと目を向けてみると、
まるで春の雪のようにヒラヒラと風に乗って
薄紅の花びらが舞い降りてくる。

「この花びらは・・・。」と 舞い落ちてくる方向を見上げると、
小高い丘の上に 1本の見事に咲き誇る様を見せた桜の木が
春景色にけぶるようにたたずんでいる。
「今が盛花と言うところだな。」 
しばし、佇んで見上げていたが、
まぁ、もう少し司令部に帰るのが遅れたとしても、
中尉に怒られるのは同じだしと、
常習犯らしい思考で春爛漫な桜の木を
観賞する為に丘を登り始める。

桜の木は近づいて幾程に、その見事さを現して目を楽しませてくれる。
暖かな日の風景が、桜の周囲だけ 
ほんのりと薄紅に染まっているように見える風景は 
まるで1枚の絵画のように見えた。

小高い丘は、子供なら息を切らせる程度の勾配があったが、
さすが軍人のロイにとっては 汗1つかく程度の事でもないので、
秀麗な顔そのまま丘を登り、木の下にたどり着いた。

「見事なものだな。」
惜しげなく、ふわりふわりと薄紅の花びらをロイに捧げてくれる巨木を
感心しながら見上げていると、
ふと足元に目に入ったモノに
軍人らしからぬ驚きの声を上げそうになるのを抑えて、つぶやいた。
「鋼の・・・。」
そこには、薄紅の花びらに埋もれるようにして横たわる
金色の少年が在った。

トレードマークの赤のコートと黒の服は、
薄紅の花びらに埋もれてしまい、
淡い色彩の中に眠る彼の存在を優しい雰囲気に変えていた。

日ごろの彼の印象といえば、強い意志に負けずに
人を圧倒するような存在感と、
ややすれば騒がしすぎる性格が災いしてか、
「小生意気なガキ」にしか
見えなかったのだが、
これがどうして 淡い色彩の中、
輝(つよ)すぎる金の光りを閉じて静かに横たわる姿は、
桜の木の影響か まるで桜の精霊のように見える。

 こうして良く見てみると
(彼は起きているときは、決して 一所にじっとしていないので)、
春の日を集めて編みこんで作ったような見事な金髪に、
青く影を作りながら光りをはじく金のまつげ。
旅から旅の毎日なのに、もとから白いからなのか 
いっこうに日に焼けない思わず触れたくなるような白い肌。
つくづく 綺麗な子供である。

そんな彼を、起きていれば「何か用なのかよ!」と食って掛かられる事が
予想できるような視線で、 ロイはエドの姿をじっと見つめ続けていた。

別にここに鋼のが居ても、さほど不思議と言うわけではない。
彼が今朝 イーストシティーに戻っている事は、
朝にホークアイ中尉から伝えられていたのだから。

自分の体と弟の体を戻すために忙しい彼は、
時間を惜しむかのように今日は南に 明日は西にと、
毎日移動している。
たまに、「定期報告」と主には情報収集の為に 
このイーストシティーに立ち寄る時がある。

広いアメトリス全土で会う可能性から考えれば、
小さいとは言えないが、地方都市のイーストシティーの中で
会ってもおかしくはないわけで。

汽車の中で また徹夜でもしたのか、ロイが横に座って覗いていても
目を覚ます気配もない。
そんな彼をロイは、怒っているとも困っているとも見える、
1番適切な表現をすれば、
この男のそんな表情は、毎日 1日の大半を一緒に過ごしている
ロイ直属の部下達も見た事がないだろうし、
浮かべている本人でさえ気づかぬ、
 「すねている」表情を浮かべて、
のんきに寝ているエドの顔を見てつぶいた。

「鋼の、報告書を持って来てくれるのではなかったのかね?」
と答えのない事はわかっている問いを声に出して聞いてみた。
別に イーストに戻った日に報告書を提出するという 
こまかな規定まで設けていたわけではない。
だから、エドが 戻った今日に提出するのも、
また しばらく姿を見せないであろう旅立ちの日に提出しに来ようが、
彼の自由のはずだったが、
なんとなく、来るだろうと思っていた自分がいた事を
いらえのない問いを口にして、初めて気がついた。
が何故、そんな風に自分が思っていたのかは解らず、
そして、何故それを望んでいたのか気づかず・・・。

「まぁ、仕方ない。」ふぅーとため息をつくと
これ以上、時間をここで費やしてしまえば 今頃、
こめかみに青筋を浮かべながら
愛用の銃の手入れをしているだろう副官に、
軍の敷地内を2度とまたがせてもらえなくなりそうな予感が浮かんで、
そろそろかと腰を上げようと、
最後にもう1度 まだまだ起きそうな気配を
見せない子供の顔に目を向けると。
ヒラヒラと舞い落ちる薄紅の花びらが、同様の薄朱く色づいているエドの
唇に舞い降りていた。

それを見たロイが、無意識に手を動かし、
エドの唇にふわりと舞い降りた花びらを 
そっと指に挟んで手のひらに乗せ、
自分の手の平ごと花びらに口付けていた。

自分の手の平に自分の唇の感触を感じるという、
余り気持ちの良くない感触に、
自分の妙な行動に気づき
はっと顔を上げ、
「何をやっているんだ私は・・・。」とつぶやいた。

自分で自分をなじりたくなる気分に陥ったが、
桜の花びらが 薄紅で甘そうだったからだと、
下手な言い訳を自分自身に言い聞かせて、
フルフルと頭を振って立ち上がっり、
気を取り直して丘を下って行った。

丘を下り終わった所で丘を見上げてみると、
初めに見た風景と同じ、桜の木は 
春の景色にけぶるようにたたずんでいる。
きっとさっきの変な気持ちや奇怪な自分の行動は、
この桜の風景に酔わせられたからだと思い込んでおいた。

そして その木の下には 
こんな苦労をしている自分を全く関知せずに、
今も気持ちの良い惰眠をむさぼっているだろう桜の精が 
すよすよと寝ているに違いないと思うと、
何やら理不尽な気持ちにならずにおれないのだが。

そして、木に背を向けて、もと来た道に足を踏み出した。
背を向けながら おもむろにポケットから目を引く
赤の練成陣が書かれた手袋を出して右手にはめた。
音もさせずに軽やかに指を擦り合わせると、
小高い丘の上からは
「熱ち~ぃ!!」と
 けなげに咲いている花が
 すべて落ちそうな振動を響かせる雄たけびが聞こえてきた。
その叫び声を聞きながら、
「鋼の、そんな顔してそんな所で眠るものではないよ。
 桜の木に攫われてしまうから。」
と口元に笑みを浮かべて去っていく。

この後、誰が犯人かに気づいた彼が怒鳴り込んで来る事を思い浮かべて。




{あとがき}
鋼小説第1弾ってか、小説をまさか書くようになろうとは・・・。
読む趣味が高じて、とうとう 自分で書いてるし・・・。( ̄□ ̄;)!!
駄文置き場と銘打ってますんで、こんな物を読んでくれた奇特な方が
「なんじゃ、こりゃ~!」とお腹立ちになられても許してください。(;¬_¬)









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